運動で怪我を防ぐ!「使いやすい筋肉」の偏りをなくすための正しい体の使い方

背景

整形外科の病院で働いていた頃、多くの中高年女性が手首や膝、腰の痛みを訴えて来院されました。

話を伺うと、内科健診で中性脂肪やコレステロールの値を指摘され、減量するように内科医から言われたため、急遽、ヨガやジムに通い始めたとのことでした。しかし、残念ながら、このように唐突に運動習慣を始めると、運動が原因で痛みを引き起こし、結果として整形外科を受診することになるのです。健康増進のための運動が、逆に負傷をもたらすという、現代医療のジレンマがここにあります。

健康運動で怪我が起こる理由:「使いやすい筋肉」への依存

この現象の背景には、運動初心者や日頃運動に慣れていない方が「使いやすい筋肉」に頼りがちな点が挙げられます。人間の身体には、立位や歩行といった基本的な動作で負担を分散する「使うべき部位」がありますが、現代の生活習慣から、無意識に「使いやすい部位」に依存してしまう傾向が強まっています。

「使いやすい部位」とは本来、早い動作に適する

例えば、混み合うスーパーマーケットでの日常の場面で、会計を終え、後ろの人が待っているからと、急いで別の場所へ移るときがあります。

その時、いっぱいに詰め込んだ重いカゴを、使いやすい手首や前腕の筋肉で持ち上げます。しかし、本来は腹筋や肩関節の大きな部位を使うべきでした。その方が、負荷に耐えられ、安全に力をかけられるからです。

また、重いカゴを移動させる際、歩くための筋肉部位さえも、無意識に早く移動したい気持ちからか、足首や膝関節など小さな部位が使われます。ここでも、本来使うべき股関節や腹筋の動きが省かれています。

このような日常動作における「使いやすい筋肉」への偏りが積み重なり、関節や小さな靭帯に負担がかかりやすくなります。その結果、手首や足首、肘や膝の故障が相次ぐのです。

正常な体の動かし方が崩れてしまっている現代

手首や足首、肘や膝の故障として代表的なのは、腱鞘炎や関節痛です。

急性の痛みは、医療機関で注射や痛み止めの薬物療法で痛みを早急に抑えることができます。しかし、これは一時的な対処です。上述したように、根本的な原因は普段の生活における筋肉の使い過ぎや偏りです。この根本部分を改善しない限り、治りきらない状態が続くのです。これが私が保険診療の医療機関を辞めた大きな理由の1つでもあります。

私は、人を根本的に良くしたいと思いました。

これは、人間が動物として立位や歩行を行うときに、本来の正常なパターンが崩れているとも言えます。

人間は本来、体重を効率よく支えるよう体の大きな部位を使うべきですが、この自然な動作パターンが崩れ、さらに不慣れなヨガやジムの負荷が加わると、結果として怪我を起こしやすくなります。こうした状況では、無意識に「使いやすい部位」に負担を集中させ、逆に本来鍛えるべき筋肉を見過ごすため、体が痛みやすくなるのです。

正常なパターンが崩れた上に、さらに負荷をかけるのが唐突なヨガやジム

この崩れた状態で、次の負荷、つまり今回の例えは、ヨガやジムで考えてみます。

使いやすい部位に、無意識にさらに、負担を与えてしまうことになりえます。

痛めやすい部位とは、概ね小さな関節や小さな靭帯です。例えば、手首や肘、足首、膝関節です。そして、可動域が最も高い腰椎が挙げられます。

こうした部位は「急ぐ日常生活」には頻繁に使われるため、意識せずとも負荷が集中しやすくなります。その結果、鍛えるべき筋肉が見過ごされ、逆に過剰に負担をかけた部位が痛みを引き起こすのです。

ヨガが安易に広まってしまった弊害

特にヨガやジムでのトレーニングでは、インストラクターのポーズを外見だけで真似ると、外見上は同じ姿勢をとっているように見えますが、実際には個々の参加者が無意識のうちに自分にとって使いやすい筋肉を優先的に使ってしまいます。

実際、ヨガの研究者であるRay Longは、「ヨガの実践者は、自分の体の使い方の癖や筋肉の不均衡に気づかないまま、既存のパターンを強化してしまう可能性がある」と指摘しています。これは、外見上同じポーズでも、個人によって使用する筋肉群が異なる可能性があることを示唆しています。

さらに、Man Flow Yogaの創始者であるDean Pohlmanは、「ヨガだけを実践すると、体に不均衡が生じる可能性がある」と述べています。特に引く動作や肘の屈曲など、ヨガでは不足しがちな動きがあるとしています。

これが、健康になりたくて通い始めたヨガやジムで、痛みや怪我を負ってしまうメカニズムです。

解決策:正しい筋肉の使い方を意識する

ヨガやジムに通う際、これらの問題に対処するためには、以下のアプローチが効果的です。

  • 適切な指導:熟練したインストラクターの指導を受け、外観上のフォームよりも、フォームをとるための正しい筋肉の使い方を学びましょう。ex)「このポーズは本来、どの筋肉に効くべきですか?」など積極的に尋ねましょう。

  • 体の意識:自分の体の動きや筋肉の使い方に意識を向け、本来使うべき部位を使えるよう練習しましょう。

  • 補完的なトレーニング:ヨガで不足しがちな動きを補うエクササイズを別に取り入れます。使うべき部位を優先したバランスを維持するよう、全身をまんべんなく気を配りましょう。

  • バリエーション:同じポーズでも、異なるアプローチや変化をつけて、偏りを防ぐ練習をしましょう。

理論上は、これらの方法を組み合わせることで、より均衡の取れた筋肉の発達と体の使い方を実現できます。しかし、日本国内でここまで指導できるインストラクターは、私自身、過去に一人しか出会ったことがありません。余談ですが、このヨガインストラクターは、自分の指導法が日本には合わないとインドへ引っ越してしまいました。

意識的に「使うべき部位」:殿筋群と腹筋群

私たちが意識的に使うべき筋肉は、殿筋群(お尻周りの筋肉)と腹筋群(お腹周りの筋肉)の2つに集約されます。これらの筋肉を日常的に機能させることで、身体全体の安定性や姿勢、さらにはボディラインまでも維持できます。

デスクワークや座りがちな生活が増えた現代の生活様式では、「使わない筋肉」の影響は計り知れません。体幹を支える殿筋群(お尻周りの筋肉)と腹筋群(お腹周りの筋肉)を使う機会が減り、「休んでいる」状態が慢性化しています。意図的に殿筋群や腹筋群を鍛えるトレーニングを行わない限り、これらの筋肉はどんどん弱っていき、結果的に筋骨格系全体の機能が低下します。

メニューに人を合わせるのではなく、人に合わせたメニューを選ぶべき

生活習慣に伴う「使わない癖」が人それぞれ異なるため、運動メニューは人に合わせるべきです。

現代の生活様式、特に座りっぱなしの時間が多い生活や、日常的な運動不足が原因で、体の基盤となる殿筋群と腹筋群を使う機会が極端に減っています。例えば、デスクワークや車での移動は、腰から下の筋肉をほとんど使わずに過ごすことが多く、次第に殿筋群と腹筋群が「休んでいる」状態が当たり前になってしまいます。そのため、現代人の多くは意識して殿筋群、腹筋群を使えるトレーニングを行わなければ、体幹のサポート力が衰え、筋骨格系システムのバランスが崩れてしまうのです。

年齢とともに訪れる筋肉の変化と体型の崩れ

「加齢とともに体型が崩れる」と言われる原因の一つは、歳を重ねるごとに殿筋群と腹筋群の衰えが加速し、使われていない部分に余分な脂肪がつきやすくなるためです。

研究によると、筋肉量は20代をピークに徐々に減少し始め、40~50歳頃から加速度的に低下していきます。

お尻が垂れる、ウエストラインがぼやける、お腹がぽっこりと出てくるといった変化は、殿筋群と腹筋群の機能が低下し、体の内側から支えられなくなっている証拠でもあります。

どれだけ熱心に運動しても、これらの筋肉が働かなければ、その効果は対処的だけに留まり、根本的な体型維持にはつながりにくいのです。

指導者の教育システムの課題

長期間、整体や治療院、ジムに通っても、なかなか体型に変化が見られないことがあります。

その原因の一つに、指導者の教育システムの問題が挙げられます。

日本の現行システムでは、理学療法士、トレーナー、柔道整復師などの資格は、試験に合格すればすぐに取得でき、翌日から施術やサービスの提供が可能になります。資格を取得すれば誰でも指導できるという制度のため、質の高い指導を受けられるとは限りません。経験の浅いインストラクターが、受講者の体格や体力に合っていないトレーニングを指導し、怪我に繋がったというケースを多く耳にします。

施術で怪我をしてしまった方は、こちらの記事「整体施術に関する注意点」も参考にしてください。施術を受ける際の注意点なども詳しく解説しています。

開業制度の課題

さらに、課題は、資格取得後も一定の研修期間やシステムが整備されていないため、すぐに開業できてしまうことです。つまり、誰からも指導を受けることなく、クライアントにサービスや治療を提供してしまう状況が簡単に起こり得ます。これは、日本の国家資格システム全体にも課題があると言えるでしょう。

EKOフィジカルでは、クライエント様に今必要な正しい体操指導であったかどうかは、即座に現れる変化で判断します。 答えをクライアントの体から教わるように、「常に学び続ける姿勢」を持つことに最も重きをおきます。

まとめ

殿筋群と腹筋群を意識して使えるようになってから、次のトレーニングステップに進みましょう。

まずはしっかりとした基礎を築いた上で、ヨガやジム、スポーツなどの活動に取り組みましょう。部位別に整えた後に、全体を使うことが、全体的な健康と美しいボディラインの維持と怪我の予防に繋がります。

優しく教え合ったらいいだけ!

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