「痛みを感じたら医師に相談を」その医師がいない日本の診療体制

近年、書籍や動画サイトを通じて、誰でも気軽に体操を学べる時代になりました。健康のために運動を始めたいという気持ちは素晴らしいものです。

近年、安易な運動指導によって、痛みや怪我を経験する方が増えています。特に、中高年女性は、手首や膝、腰などの痛みに悩まされている方が多いようです。

私が整形外科医として長年、病院の勤務の中で診てきた経験からもそう言えますし、データからも示されています。

一方で、健康のための運動ブームは時代の良い流れとも言えるでしょう。この文化が根付き始めたのは、2020年のパンデミックによる自宅待機の経験からではないでしょうか。「健康になりたい」→「運動しよう」→「自宅でできる簡単な運動から」という流れが生まれました。

データから見る健康トレーニングブームの到来

コロナ前後でのトレーニングブームの変化を示す具体的な数値比較データは限られていますが、いくつかの関連情報から傾向を読み取ることができます:

  24時間ジムの成長:

  • エニタイムフィットネス: 2020年以降の3年間で226店舗増加し、1000店舗超えを達成

    オンラインフィットネスの台頭:

  • コロナ前はあまり普及していなかったが、2020年以降急速に発展

  • アメリカスポーツ医学会の2021年トレンドランキングで1位に

    高齢者向けフィットネスの回復:

  • カーブス: コロナで30万人減少した会員数が2022年に77万人まで回復

    新興ブランドの急成長:

  • chocoZAP: 2021年10月に1号店出店後、2023年度に1,000店舗超、会員数100万人超を達成

これらのデータから、コロナ前後で以下のような変化が見られます:

  • 24時間ジムや低価格ジムの急成長

  • オンラインフィットネスの普及

  • 高齢者向けフィットネスの需要

全体として、コロナ禍を経て市場は変化しつつも、健康意識の高まりによりトレーニングへの関心は増加傾向にあると言えます。

故障の増加を示すデータ

コロナ禍を経てトレーニングへの関心が高まる一方で、それに伴う故障の増加を示すデータがいくつか見られます:

民間運動施設カーブスの調査では:

  • 4年間(2014-2017年)で1,164件の事故報告があり、うち367件が救急搬送事例でした。

  • 事故の87.3%は軽症でしたが、中等症9.3%、重症3.4%も含まれていました。

  • 外科系の事故では、マシントレーニング中の胸骨骨折や転倒による大腿骨骨折などが報告されています。

KINMAQ整体院の報告によると:

  • 2023年1月~3月にスポーツ再開後のケガで来院する30~40代のビジネスパーソンが、昨年同時期の約2倍に増加しています。

アルトラ(シューズブランド)の調査では:

  • ランニングを始めてから1年以内に足の痛みや違和感を覚えたランナーは65.6%に上りました。

  • うち61.7%が、そのために走るのをやめたり中断したりしたことがあると回答しています。

これらのデータから、コロナ禍を経てトレーニングへの関心が高まる一方で、急激な運動再開や不適切なトレーニング方法により、怪我や故障のリスクも増加していることが示唆されます。適切な準備や指導の重要性が浮き彫りになっていると言えるでしょう。

運動による痛みや怪我への対策

さて、どうしましょうか。私が考える、簡単な運動でも痛みや怪我が生じる場合の解決策は、以下の2点です:

  1. 痛みと怪我を生まない体操指導ができる指導者

  2. それを治療できる医師

多くの運動指導では「痛みを感じた場合はすぐに中止して医師に相談してください」という注意書きがよく見られます。しかし、現実には健康のための体操で怪我をして整形外科を受診しても、レントゲン検査で骨折がなければ「運動を中止して様子を見てください」と痛み止めの処方で終わることが多いのです。

これらのエクササイズを組み合わせて定期的に行うことで、股関節の支持性を効果的に強化できます。トレーニングを始める前には必ずウォーミングアップを行い、痛みを感じた場合はすぐに中止して医師に相談することが重要です

といったような文言はよくみかけますが、相談する医師や診療科がないのが現在の日本の事情です。

日本の医療体制の課題

ここで問題が生じます:

  • 動画の指導者とは直接会話ができない

  • 病院では検査と痛み止めの処方で終わる

  • ヨガやジムでは痛みがある場合、参加を拒まれることもある

そもそも、ヨガやジムのインストラクターには「治療」の側面がありません。日本では「治療」ができるのは医師のみです。運動器の痛みや怪我を専門的に扱うのは整形外科医ですが、リハビリテーション科医は主に脳疾患のリハビリを行います。

じゃあ、運動器のリハビリテーション医学は?と聞くと、実は国内では不在です。

海外との違い

欧米やアジアの他国では、PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation)という専門医がいます。これは運動器の痛みや慢性的な使い痛みなどを専門的に扱う医師です。当院長は日本人として初めて米国スタンフォード大学PM&Rスポーツ診療部へ研究医として採用された経歴を持ちます。日本にはPM&Rの診療科がないため、「手術をしないで治す整形外科医」と言えるでしょう。

骨折や断裂などの、物理的な修復を要する怪我は引き続き保険診療内での外科的治療が必要になります。

当院の取り組み

当院のメディカルトレーニングは治療の側面を持つトレーニングですが、日本の医療制度にはフィットしないため、健康増進法に基づく「体操教室」として運営しています。このように、日本の医療体制には運動による痛みや怪我に対応できる専門的な診療科が不足しています。今後、この分野の発展が望まれます。

引用元:

https://www.rinspo.jp/journal/2010/files/27-2/258-265.pdf

https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/lifestyle/beauty/13528/

https://altrafootwear.jp/blogs/news/voluntary_restraint-running-resarch

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000373.000001915.html

https://www.planet-van.co.jp/shiru/from_planet/vol140.html

https://business.fitnessclub.jp/articles/-/2177

https://www.shuken.jp/column/%E3%82%B8%E3%83%A0/4942/

https://sharez-gym.com/blog/fitness-chaos-map-2023/

https://www.bc01.net/article/fitnessfc/

https://halftime-media.com/wellness/fitness-trend/

https://www.a-t-company.jp/know-how/fitness-trend/

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000065.000024685.html

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