ポキポキ音を鳴らす施術「スラスト法」は警告されています
「関節をポキポキと鳴らす施術は安全ですか?」という質問をいただくことが増えています。
ポキポキ音を鳴らす「スラスト法」について
「スラスト法」とは、施術の際に、ポキポキ音を鳴らす技法です。音が鳴ると、「気持ちが良い」「効果がある気がする」といった感想がありますが、治療家の中でさえ、この技法に対する有用性について賛否の声があります。
そして何より、明確に安全性を裏付ける学術的な根拠が現在も不在です。
本稿では、極力多くの情報を集め、まとめました。私自身の経験も踏まえてスラスト法に対する私見とリスクについて説明いたします。
リラクゼーション?治療?
関節に音を鳴らすという行為は、多くの人々にとって快感やストレス解消の手段となっているかもしれません。
一方、医学的にはその安全性に疑問を持つ声も少なくありません。
私の経験から申し上げると、ポキポキと音がすることで確かにリリース感が得られ、気持ちいような気分になりますが、これが関節にどのような影響を及ぼすのかについては慎重に考えるべきです。
長期的な影響
ポキポキ鳴らす施術を定期的に行うことが関節や筋肉に与える悪影響を証明する研究結果はまだありません。
研究をするには、長期にわたる調査と膨大な費用、そして労力を要する医学研究が必要です。しかし、そのための多額の費用に見合う研究者への利益はほとんど見込めないのが現状であり、結果としてこの分野の研究は進んでいないと言えるでしょう。
影響が深刻となるケースもありうるため、専門家のアドバイスを受けつつ、自身の身体と向き合う姿勢が極めて重要です。
首ポキポキ整体と椎骨動脈解離の関連性
「首をポキポキと鳴らす施術」によって血管損傷が引き起こされるかどうかについては、現時点で直接的な因果関係が証明されていません。
別の記事でも述べたように、この分野の因果関係を明確にするには膨大な時間と費用、そして労力が必要となるため、研究者にとっても実施が難しいのが現状です。
しかし、この問題は私にとって他人事ではありませんでした。
学生時代の辛い思い出
私が医学生だった頃、同級生のお母様がカイロプラクティック治療院に通っていました。
ある日の施術後に、椎骨動脈解離が生じ、脳梗塞を発症しました。肩こりや首こりを解消するために通う中で、ポキポキと音を鳴らす施術を繰り返していたそうです。
ある時、それにより血栓が発生し、脳に血栓が飛び、脳梗塞に至ったのです。
30代を超えると注意
Mr.Childrenの歌手の方が30代で脳梗塞を発症したというニュースが過去にありました。
動脈硬化は30代を超えると急激に増加するため、30代以上の方の血管は、既にある程度硬化していると考えても過言ではありません。
「30代なんてまだ若いのに」と、意外だったかもしれませんが、血管の壁には粘着性の高い血栓がつきやすく、何らかの衝撃でそれが剥がれ、血流に乗って脳や心臓の細い血管を塞ぐことで、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすのです。
研究結果から考察
椎骨動脈解離と頸椎マニピュレーション(首ポキポキ整体など)の関連性については、以下のような研究結果があります:
大規模な研究では、頸椎マニピュレーションと椎骨動脈解離のリスク増加の関連性は示されていません。米国の高齢者を対象とした研究では、頸椎マニピュレーションを受けた群と対照群の間で椎骨動脈解離のリスクに有意差はありませんでした。
系統的レビューおよびメタアナリシスの研究によると、カイロプラクティック・ケア(頚椎マニピュレーション)と椎骨動脈解離の因果関係を示すエビデンスはないとされています。
約100万回のカイロプラクティック治療を調査した後ろ向き研究では、深刻な有害事象が発生するのは脊椎マニピュレーション治療の100,000回に1回未満であると結論付けられています。
これらの研究結果から、適切に行われた頸椎マニピュレーションと椎骨動脈解離の直接的な因果関係は確立されていないと言えます。
ただし、前述したように、研究自体が著しく不足している現状を前提に理解すべきです。
これは、特に施術が必要とされる場合において、不適切な施術や患者個々の状態に応じた配慮がなければ、リスクが高まることを意味しています。
外傷性骨折
似たようなトラブルとして、整体やカイロによる外傷性骨折については、以下のような報告があります:
国民生活センターの報告によると、手技による医業類似行為(整体、カイロプラクティック、マッサージ等)で発生した危害のうち、9.6%が骨折でした。
特に胸部・背部の骨折に関する相談の大半は、肋骨を骨折した、あるいはひびが入ったという内容でした。
厚生労働省は、頸椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法について、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、禁止する必要があると警告しています。
これらの情報から、不適切な施術によって骨折などの重大な危害が発生する可能性があることが示唆されています。
ただし、適切な技術と知識を持つ施術者による施術では、そのようなリスクは大幅に低減されると考えられます。
以上の情報は、各種の学術研究や公的機関の報告に基づいていますが、個々の症例や状況によって異なります。
まとめ
心と体を、ご自身を大切に。
引用元:
https://www.acatoday.org/news-publications/vertebral-artery-dissection-an-evidence-review/
https://www.izumichiro.com/chiro.html
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30141141/
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002lamn-att/2r9852000002latt.pdf