私たちは、こんな医療をしたくて医師になったわけじゃない――なぜ医療スタッフは馬車馬のように働かされているのか?
■ 医療スタッフが「疲れきって」いる理由
「先生、大丈夫ですか?」
「看護師さん、ずっと動きっぱなしですね」
患者さんからこんな声をいただくことが増えました。
実際、医療スタッフの多くが“限界の一歩手前”で働いています。
その背景には、国が決める診療報酬制度と、それに起因する過労の実態があるのです。
■ 医療は「国が値段を決める世界」
医師が行う診療には、すべて「診療報酬」と呼ばれる定価がついています。
たとえば整形外科の一例では:
関節腔内注射:80点(=800円)
トリガーポイント注射:80点(複数部位でも1日1回のみ)
リハビリ1回(20分):最大185点(=1,850円)
これらの点数が年々引き下げられていることが、医療機関の収入減からの倒産に直結しています。
📉 実際のデータが示す、診療報酬の「減額の歴史」
🩺 整形外科における診療報酬の推移と現状(2010年 → 2022年)
【1】骨折治療の診療報酬推移
骨折非観血的整復術(四肢):
2010年:1,000点 → 2022年:850点(15%減)骨折観血的手術(四肢):
2010年:3,000点 → 2022年:2,700点(10%減)
【2】注射の診療報酬推移
関節腔内注射:
2010年:100点 → 2022年:80点(20%減)トリガーポイント注射(1部位):
2010年:100点 → 2022年:80点(20%減)
【3】MRI検査の診療報酬推移
MRI撮影(四肢):
2010年:1,500点 → 2022年:1,350点(10%減)
【4】リハビリテーションの診療報酬推移
運動器リハビリテーション(Ⅰ)(1単位=20分):
2010年:205点 → 2022年:185点(約10%減)
備考:
データは厚生労働省診療報酬改定資料(2010年、2014年、2016年、2018年、2020年、2022年)に基づいています。
数値は一部の点数に基づく参考値であり、施設基準や技術料、加算の有無などで変動する場合があります。
■ 診療報酬が下がると、何が起こるのか?
想像してみてください。
かつて1,000円で評価されていた医療行為が、100円になったとしたら──
医療機関はどうやって経営を維持すれば良いのでしょうか?
答えはひとつしかありません。
1人の患者に10分かけていた診療を、1分で“さばく”しかなくなるのです。
質を落とすか、数をこなすか。究極の選択です。
🟩 医療はビジネスじゃない——仲間と歩んできた道のりがある
たしかに「単価が下がるなら、無理に働かず収益を抑えた運営にすればいい」「不要な人材を整理すれば効率的だ」といった、無機質な意見を耳にすることがあります。
しかし、医療は単なる資本主義ビジネスではありません。
これは、医療の現場で命と向き合ってきた者にしか分からない感覚かもしれません。
私たちにとって、共に働くスタッフは“従業員”ではなく、“同士”です。
家族以上、でもそれとは少し違う。言葉にするのは難しいのですが、「人を良くする」ことに全力で向き合い、ときに自分の健康や時間を犠牲にしながら、共に歩んできた仲間を、ただの「時給いくらの労働力」として見ることはできません。
私自身、いまでは従業員を抱える立場にもなりましたが、そんな簡単に「人材を整理する」なんてことは、現実にはできるはずがありません。
一緒に積み上げてきた時間、苦楽を共にした経験があればあるほど、人は“コスト”や“戦力”だけでは語れない”家族のような”存在になります。
そういう想いと信念が、日本の医療の質を支えています。
そして私は確信しています。日本の医療は世界一です。日本の医療人も、間違いなく世界一なのです。
1,000円払ったなら、1,000円分だけ優しくしてあげる。
そんな損得勘定でゆがめられた倫理観で行われる医療を、誰が本当に望むでしょうか?
■ 現場の実態:「ベルトコンベア型医療」と“馬車馬”の働き方
これは、もはや医療とは呼べないかもしれません。
医師も、看護師も、リハビリスタッフも、
まるで“流れ作業”の一部のように動き続けなければならない。
スタッフは、予約で埋まった時間を一秒たりとも無駄にできない。
要は、馬車馬のような働き方です。
そして、この無理が実際に数字として現れています。
■ データで見る、医療スタッフの過労と健康問題
🔹 医師の過労とバーンアウト(※厚労省 2023年調査より)
**勤務医の約40%**が、過労死ライン(年間960時間超)を超えて働いている(2023年)
**約10%**がその2倍(1,860時間超)、**1.6%**は3倍(2,880時間超)(2023年)
国内調査では、医師の20~50%がバーンアウト症状を経験(2022~2023年各種調査より)
年間80人以上の医師が自殺しており、その7割は勤務医と推定される(推計2021年~)
🔹 看護師の過労と離職(※厚労省・日本看護協会等による2022~2023年調査)
毎年約10万人の看護職員が離職、新卒の約1割が1年以内に退職(2022年度)
看護師のバーンアウト率は医師の2倍(2022年~2023年)
業務量、ケアの不全感、労働環境が主な要因とされ、医療事故リスクの上昇も指摘されている(2022年度報告)
🔹 2025年問題と医療崩壊の加速
高齢化に伴い医療需要が急増する中、人材不足が加速
医療スタッフ一人あたりの負担は今後さらに増大する見込み
■ 医師は「患者を救いたい」と願ってこの道を選んだ
私は今でも忘れられません。
医学部の卒業式で、仲間たちがこう語ったことを。
「良い医者になりたい」
「誰かの力になりたい」
「目の前の命を助けたい」
誰も「馬車馬のように働く」なんて夢見ていなかった。
でも今、現場には理想を貫く余地がないのです。
理想を掲げれば経営が傾き、現場が回らなくなる。
■ 医療の“原点”が失われる
私たちは「もっと給料を上げてくれ」と言いたいのではありません。
もっと丁寧に診療がしたい
一人ひとりの患者さんに向き合いたい
大切な命に、ちゃんと時間を使いたい
でもそれをするための、「制度」がない。
なぜなら、制度が「効率化」や「点数稼ぎ」にすり替わっているからです。
🔚 医療を“効率”と“点数”で壊さないために
医療とは、本来「人と人が向き合う営み」です。
しかし今、その価値が「点数」や「効率」でしか評価されない時代に突入しています。
本当に大切な医療、本当に必要なケアは、
“収益性が低い”という理由で、どんどん隅に追いやられているのです。
現場では、多くの医療スタッフが時間に追われ、
「本当に届けたい医療」と「現実とのギャップ」に苦しんでいます。
このままでは、“本物の医療”は育ちません。
🫶 “点数”ではなく、“あなたの健康”を守る場所として
でも、だからこそ──
私たちは“自分の健康”を、自分で守れる存在になっていく必要があります。
「体調を崩してから病院へ行く」のではなく、
「崩れる前から支えてくれる存在」に出会っておくこと。
それが、これからの医療との向き合い方なのかもしれません。
私たちのクリニックは、
あなたが「まだ元気なうちに、安心して立ち寄れる場所」でありたいと願っています。
もしこの記事が少しでも心に響いたなら、
ぜひ、ご自身や大切な人の健康について、思いを巡らせてみてください。
そしてこの話題を、ご家族やご友人と共有していただけたら嬉しく思います。
最後に
今、医療の原点が壊れつつあります。
それでも、あなたは「このままでいい」と思いますか?
そしてその影響は、いずれ私たち自身の身に返ってくるのです。
引用・参考リンク(主な出典)